KGA Studioのコンセプトは、「音楽を楽しむ」。では、音楽を楽しむとは一体どういうことだろう?どんなふうに音楽を楽しめるのだろう?
この連載では、シンプルなようで奥が深い、音楽の楽しみ方、そしてギターの楽しみ方を、あらゆるインタビューを通じて深掘りしていきます。
連載第3回目は、KGA監修のギタリスト・こーじゅんさんにインタビュー。ギターを探求し続けているこーじゅんさんならではの、素敵な音楽の楽しみ方、ギターの楽しみ方を教えていただきました。
取材・文/根本 理沙(株式会社Lipple)
楽器はやってなかったけど、遊び感覚で音楽に触れていました
——まずは、こーじゅんさん音楽のルーツを教えてください。
生まれた頃から、音楽は身近にありました。お父さんがギターや三線(沖縄や奄美地方に伝わる弦楽器。3本の弦に蛇の皮をまとっているのが特徴。)を弾いていて、子どもながらにめちゃくちゃうまいんだろうなと思っていました。生まれた頃から当たり前に音楽がずっとあった感じはします。
けれど、そのころ僕はギターや三線には興味なくて、教えてとか触らせてとかなかったですね。いま子どもの頃を思い出して、そういえば聴いていたなという感覚です。
——ではこーじゅんさんが音楽を意識したきっかけはいつでしたか?
中学生ですね。世の中で「ハモネプ」という高校生がアカペラの技を競い合う番組が流行ったんです。それをテレビでみていたのですが、番組の中で、ボイパのやり方を教えるというコーナーがありまして。テレビでは芸能人の人はみんなできないできないって盛り上がっていたのですが、僕はなぜかできたんですね。
それで次の日学校で、できるぜってみんなに披露したら、すごいってクラスで話題になったんです。その時が、音楽っておもしろいかもと思いはじめたきっかけかもしれません。
友達と見よう見まねのアカペラグループとか作ったりして、僕はリズムを担当していました。
——その頃からリズムに親しんでいたんですね。
そうですね!運動するのも好きで、よく公園でストリートバスケみたいなことをやっていたんですけど、その休憩の間にアカペラやったり、「学校へ行こう!」のリズムゲームとかやっていました。
楽器はやってなかったですけど、音楽には触れていましたね。本当に遊びでやってるって感じでしたが。
その後、高校に入ってからは、アカペラをやっていたメンバーと離れてしまったんです。高校の友達とやれば良いと思っていたのですが、誰もやってくれる人がいなくて。結局アカペラやボイパは自然とやらなくなってしまいました。
——音楽からは離れてしまったんですか?
離れたという感覚はなかったけど、普通の高校生活を送ってました。次に音楽を意識したのは、ギターと出会った時ですかね。
できなくて悔しかったから、できるようになりたいと思ったんです
——ぜひ、こーじゅんさんとギターの出会いを教えてください!
高校2年か3年の時だったと思うのですが、文化祭のような、舞台で何かの出し物をするみたいな行事があったんです。その準備期間に、軽音部のベースの人が体調崩してしまって、代わりのベースの人を探しているというのを教室で話しているのが聞こえたんですね。
それを聞いて、できもしないのになんとなくやってみようと思って、「やろうか」って言ったんです。なんかできたらかっこいいかなと思って。
「あと4日だけどできる?」って言われたのですが、どうせギターメインだし、ベースならできなくてもなんとなく弾いていればいいかなみたいな、僕も友達もみんな甘い考えで、それで引き受けたんです。
実際にやってみたら、大変でした。左手をどう押さえるのか、右手をどう押さえるのかすらもわからず必死でした。何でもやってみたらできるだろうみたいな、勢いで引き受けたら、頭の計算と違って、まあまあできないまま本番を迎えました。
僕としては、恥をかいたという感想でした。ギターボーカル、ベース、ドラムのスリーピースバンドだったので、もう隠し切れないんですね。どう考えてもあいつミスってるなみたいな。
まあ聴いているのも学生なので、みんなそんなに気にしてなかったと思うのですが、僕の中では完全にトラウマになってしまいました。
——意外です。ギターをはじめてすぐに弾けるようになったのだと思っていました。
そんなことないんですよ。ギターは、ある程度できるようになるまで苦労しました。今もまだまだだと思っています。
さっきトラウマになったと言いましたが、悔しいという気持ちもあって、ベースを弾けるようになりたいとそこで本格的に思いました。たった4日でしたが、練習は楽しかったですし、上手に弾けるようになったらもっと楽しいんだろうなって。それがギターというか、楽器というものに触れるきっかけになりました。
自分でベースを買って練習したかったのですが、当時、沖縄ってそんなに楽器屋がなくて。売ってる楽器の数も少なかったんです。学生が買えるような値段のベースがなくてどうしようか困っていたら、友達に、エレキギターは6本弦があるけど、そのうちの低い方から4本(6〜3弦のこと)は、同じチューニングができるから、それで練習したらいいんじゃないかと言われて。それで、エレキギターでベースの練習をするようになったんです。
最初は文化祭で弾いたフレーズを練習したりしていたのですが、1ヶ月くらいしたら、エレキギターでできることも覚えたいなと思うようになって、独学でいろいろなことをやりはじめました。和音を自分で作ったりとか。いろいろな音を鳴らして、こことここの音を同時に鳴らしたらどうかな、変じゃないかな?みたいなことをひたすら考えていました。
というのも、その当時、コードというものが存在することも知らなかったんです。アーティストが自分で一からフレーズやコードを作っているのだと思っていて、僕もそうするものだと思って練習していました。あとは、テレビでギターを弾いている人をみて、なんとなく手の動きを真似したりしていましたね。
余談ですが、当時、チューニングのやり方を間違っていて、結局全然正しくない音で和音やフレーズを作っていたんですよ。それはそれで良い思い出ですね。
——当時から、音楽に対しては実験的な視点で触れていたんですね。
完全にそうですね!今の自分の考え方と同じですね。自分でフレーズを考えて、それを作り込んで完成させていって、自分の中のストックが増えていく、みたいなことをずっと繰り返していたのですが、それがひたすら楽しかったです。
さっき話したように、チューニングのやり方が間違っているから今はもう弾かないけど、当時自分で作った曲を家族に聴かせたりしていましたね。
そういうことを繰り返しているうちに、もっといろんな人と練習したり、演奏したいなと思って、ギターをやっている人を探したんです。そしたら、ギター仲間のコミュニティみたいなものがあって、そこに入れてもらったんですね。そして、そこで僕が全然ギターが弾けていないことに気がつきました。
絶望的に下手すぎて、FコードとかローコードのCとかを教えてもらうのですが、何回やってもできなくて。僕より後にギターをはじめた人にも、なんでできないの?って言われたりしてましたね。
周りには、まあまあ大丈夫だよって言ったりしていたけど、内心なんでこんなに下手なんだ?とソワソワしていました。とにかく何回練習してもできなくて、人の3倍くらい練習したと思うのですが、結局できなかったんです。その時、本格的に向いていないと一旦思いましたね。
やりたいことが絶望的に向いていないと思い、僕が考えたのは、どうやったら自分が上達するのかということでした。結果、周りの人の意見を聞いても、みんなできる視点でアドバイスするから自分には参考にならないと感じ、自分は自分のやり方で基礎からはじめようと思ったんです。そこからは、とにかく基礎の基礎まで遡って練習するようになりました。例えば、ピッキングをする練習じゃなくて、ピッキングするための構えからやろう、とか、テクニックではなく、ギターを演奏するために必要な基礎練習から取り組んでいきました。
今、みなさんにあらゆる練習方法のアドバイスをしているのは、僕が実際にやってきたものなんです。
基礎の基礎から練習していったら、少しずつ成長しているのを感じはじめて、そこからはひたすらに基礎練を繰り返していきました。そのうち、効率よく練習する能力がついたんですね。とにかく下手だったので、何がダメでどうしたらいいのか、みたいなことをずっとやってました。
最初は人の3倍や5倍くらい練習していたものが、徐々に周りと同じくらいのレベルになってきて、急に上手くなったんです。周りに負けたくないという気持ちもあったけど、練習したらだんだんできるようになっていくという感覚も、RPGのレベル上げみたいで楽しかったですね。
音楽は僕にとって一番のライバルです
——こーじゅんさんにとって、音楽の楽しみ方は探求することなんですね。
そうですね、探究という表現もいろいろあると思いますが、僕の場合は、自分のものにしようと思いながら聴くことが多いです。僕はみなさんのイメージするような音楽鑑賞とは、少し違った楽しみ方をしているかもしれません。
音楽を聴こうとすると、頭の中でセッションがはじまってしまうんです。それで、このフレーズはこうやってやってるかな、とか、ここの演奏はこうやって弾いているだろうな、みたいなことを考えるんです。今のリズムかっこよかったな、なんでかっこよかったのかな?とか、分析をしているんですね。
純粋に音楽を味わうということをしていないかもしれません。自分ならどうするか、とか、そういったことを常に考えていますね。
何も考えずに聴いている音楽ってあるかな・・・あ、BUMP OF CHICKENや、友達のバンドのソウルズとかの曲を聴く時は、純粋に楽しみながら聴いている気がします。多分、僕は、この音楽は今はやらないかなと思っているジャンルは、1人のファンとして聴いているんだと思います。歌物やポップスとか。
あとはゲーム音楽とかは、楽しみながら聴いていることが多いですね。
——ゲーム音楽もお好きなんですね。
そうなんです。昔からゲーム音楽も好きで、結構いろいろな曲を聴きます。ゲーム音楽はオーケストラ編成の曲が多くて、今の僕の頭の処理能力では、情報量の多さに負けてしまうことがあるんですよね。だから楽しみながら聴くことが多いのですが、いずれはゲーム音楽も攻略して、ギター1本で表現することに挑戦したいと思っています。曲によってはできるものもあって、以前、スーパーマリオのBGMをアレンジしたりもしました。
僕はギター1本で表現できることを追求していきたいと思っています。ギター1本しかない無人島に飛ばされて、そこでお前は何ができるんだ、みたいなことをしたい。だから、音楽を聴くときも無意識に何かを発見しようとしながら聴いてるんだと思います。
もしかしたら、独特な音楽の楽しみ方かもしれませんが、これはあくまで僕の場合の楽しみ方なので、みなさんはみなさんの音楽の楽しみ方を追求してください。みなさんにとって楽しい、と感じていたら、それはもう十分素晴らしい音楽の楽しみ方だと思います!
——こーじゅんさんにとって音楽とはどんな存在ですか?
音楽には仕事として携わらせてもらっているけど、最高の趣味でもあるし、一番挑戦しがいがあるものでもあります。僕にとっての一番のライバルみたいな存在ですかね。
僕がちょっとでも怠けていたらすぐに教えてくれるんです。僕は練習しないとすぐにわかっちゃうので、お前練習してないよな、と言われているのを感じます。
音楽がなかったら、今の僕がいないというのもあるので、音楽に対してはいつも感謝しています。
もし自分の人生に音楽がなかったら?運動系とか体を動かす仕事についているかな?僕の人生で、ダントツで一番良い選択をしたなと思っています。
僕はとことん練習が好き。ひたすら探求し続けたいです
——では続いて、こーじゅんさんにとっての、ギターの楽しみ方を教えてください。
やっぱり、音楽の楽しみ方と同じで、ギターも探求していくことが僕にとっての楽しみ方です。自分自身に問題を作って、それをひたすら解いていくみたいなことをギターでもやるんです。自分の実力よりちょっと上のフレーズを問題として出して、それが弾けるようになるまでひたすら練習するというのを繰り返していました。レゴやパズルで遊ぶような感覚と近いですね。
——かなりストイックな楽しみ方ですね。
僕としてはストイックだと思ったことがあまりないのですが、これも、人それぞれの感覚があるはずなので、楽しいかそうでないかの判断は自由だと思っています。
僕の性格もあるかもしれませんが、自分のできないことをみつけて、それ乗りを越えていくことが楽しいんですね。とにかく試してみる、実験してみる、というのがすごく楽しい!
みなさんに、僕の演奏を聴いてもらえたり、楽しんでもらえることは、本当に嬉しいですし、感謝しています!その上で、誤解を恐れずに正直に言うと、曲を作って誰かに披露したり、人前で演奏することにあまり興味がないんですね。ただ自分が楽しいから、ギターを弾いているという感覚なんです。
だからあまり、ライブやろうとか、CD作ろうとか、そういった考えが僕の中にはなかったりします。僕の場合、自分がやりたいことを突き詰めていった方が、みなさんの反応も良かったりします。
あとはリズムの存在は、やっぱり重要視しています。KGAでもリズムの話はいろいろなところでしていますが、どんな曲にもちょっとしたノリが存在するので、それを自分なりのノリに変えたらどうなるのかなと試してみたり、アレンジしたりしています。
何でもかんでも、とにかくノリが良いものじゃないと僕は嫌なので、どこにノリが隠れているか探しています。ノリがない音楽もあるけど、じゃあノリがあるようにしたらどうなるのかなというのをギターで実験するのは楽しいですね。
——演奏者というより、研究者という感じですね。
ああそうですね!僕は練習を考えることが好きなタイプなんですね。課題に対して、どんな練習をしたらいいのか、ということをずっと考えています。本番にあまり興味がないですし、作品作りもそこまで興味が持てなくて・・・
例えば、発掘調査をして、誰もみたことがない化石を発見したとしても、僕の場合、新しい化石あったね!と喜んで、次の瞬間にはもう次の化石を探しにいってるんですよね。研究者にもいろいろなタイプがいると思いますが、僕の場合は、発見するまでのプロセスが楽しいんだと思います。
ギターのフレーズも同じで、僕の中のストックは常に進化し続けています。その時練習していたフレーズが、僕の中で及第点に到達したら、そのフレーズは一旦寝かせて、次のフレーズにいこう、と思うんですね。なので、たまに過去に弾いていたフレーズをリクエストされたりするのですが、僕としては忘れてしまっていることが多いです。
ただ、一生やらないというわけではなく、寝かせている状態なので、自分の中のギターレベルの基準がアップデートされたら、そのフレーズもまた挑戦する必要があると思い続けています。
何かひとつできるようになっても、またすぐに次の課題がギターから出されて、今度はその課題に取り掛かって、ということを延々と繰り返していますね。ここ数年で覚えた言葉ですが、「問題解決」を僕はずっとギターでやっているんだと思います。
僕にとってギターは、自分自身を成長させてくれる存在です。
ギターをやることで、人間としてのレベルがどんどん上がっているのを実感します。ギターでできないことに取り組むことは、人生でできないことに取り組んでいるような感覚があるんですね。
本当に、ギターで人生の全てが成長していると思っています。ギターのおかげで成長させてもらっているので、感謝しかないですね。
——なるほど。こーじゅんさんにとって、ギターは師匠なんですね。
はい。ギターに教えてもらっているという感覚があります。音楽もそうですが、ギターに対しては、今でも苦手意識があります。
けれど、苦手だからこそ、ギター講師という仕事もできているんだと思います。ギターをやっていなければ、できないものができるようになる感覚、できない人の感覚、というのは一生わからなかったと思います。
教えるという仕事は、できない人、わからない人の気持ちや考えを理解しないと、上手くいかないと僕は思っているんですね。僕はギターで必要なテクニックはもれなく躓いてきたので、そういう意味では、できない人の気持ちもすごくわかりますし、どうやったらできるようになっていくのかもアドバイスできると思っています。
僕は、できないからこそ、挑戦しがいがあって楽しいなと思いますし、ちょっとでもできるようになると、すごく楽しい、もっとやりたい、と感じるんですね。最初から難なく弾けていたら、僕はギター人生を選んでなかったかもしれません。
死ぬまでに、ギターも音楽も、100%完全に習熟することってないと思うんです。だからこそ、そこに挑戦していきたいという思いが僕にはあります。一生達成できないかもしれないけど、もしかしたらできるかもしれない、という不安定な状態が、挑戦し続けたいという気持ちにさせてくれます。
よく、そんなに弾けたら楽しいですよねと言われることもありますが、弾けていない状態から、弾けるように精進することもすごく楽しんでいます。練習メニューを考えたりするのもとても楽しいですね!
最近気づいたのですが、僕がやっていることは、「アート思考」という考え方に近いと思っています。以前紹介してもらって『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』という本を読んだのですが、まさに本で書かれていることを僕は信条としていて、実践してきました。
読んだことがない人には、ぜひ読んでほしいので本の内容には触れませんが、自分の人生の中ですごくしっくりきた本ですね。
——今日はありがとうございました。
ありがとうございました!コツコツ練習することって、ダサいとかつまらないみたいな印象がありますが、僕はめちゃくちゃ楽しいことだと思っています。そして、僕の場合は、その練習メニューを考えることが好きなんですね。
何事も、コツコツ続けていると、突然成長する瞬間というのがあって、その瞬間に出くわすのも、僕にとっては楽しみ方のひとつです。
ずっと話してきたように、僕は最初ギターがとにかく下手で、向いてないと言われ続けていましたが、それを無視してひたすら基礎練をやってきました。すると、ある時、とんでもなく成長する感覚を体験したんです。それこそ、普通の地面を歩いていたら、エレベーターが現れて、一気に数階分上昇するみたいな。
今まで3回くらい体験しています。その時は、自分めちゃくちゃ向いてるぜ!という前向きな気持ちになっていましたね。
人は、向いてないと感じるとやめちゃうことが多いけど、向いてなくても基礎的なことをコツコツ続けていたら、向いているなと思う瞬間がやってくると僕は信じています。
苦手なものをずっとやるよりも、得意なことを伸ばした方が有意義だと皆さん考えると思いますが、僕の場合、苦手なこと、ある意味人生を棒に振るようなことをずっとしていたら、結果的に向いていたなと思っています。
汚い石をずっと磨き続けていたら、実は世界にひとつしかないダイヤモンドだったみたいな。
そういう感覚を楽しみに、今も自分の石を磨き続けています。これからも音楽やギターを続けていく中で、真の意味で、自分がすごく向いていると感じられる瞬間があるんじゃないかなと。そういう、知らない自分に出会えることを楽しみにしています。
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