インタビュー

「ギターをとことん使い込む。自分だけのギターに変化していくのが楽しいですね。」——ギター講師・トサキユウキ

KGA Studioのコンセプト「音楽を楽しむ」について探るインタビュー連載。音楽を楽しむとは一体どういうことなのか?音楽の楽しみ方にはどのような方法があるのか?
シンプルだけど奥が深い「音楽の楽しみ方」、そして「ギターの楽しみ方」。連載第2回目は、KGA Studio講師のトサキユウキさんにインタビューしました。

ブルースと酒と読書をこよなく愛するトサキユウキさんからは、大人でディープな音楽の楽しみ方を教えていただくことができました。


取材・文/根本 理沙(株式会社Lipple

歌ものが僕の音楽のルーツになっているのかも

——まずは、トサキユウキさんにとっての音楽のルーツを教えてください。

ルーツというか、音楽の存在を認識したのは、やっぱりギターを持った瞬間でしょうか。昔からゲームに使われている音楽とかいいなと思って聴いてましたが、ギターを弾くようになって、もっと詳しく音楽というものを観察するようになりました。

——子どもの頃聴いていた音楽などありますか?

中学生の頃はよくフォークソングを聴いていましたね。長渕 剛や、さだまさし、吉田拓郎など・・・
父親が長渕 剛を好きで、家にたくさんCDがあったんです。それを自分でテープで録音して聴いたりしていました。他にも父親がいろいろなアーティストのCDを借りてくるので、それをMDに録音して聴いたりしていましたね。
当時はあらゆる音楽番組が放送されていましたが、興味なかったですね。映像をみるより、CDで音源を聴くという体験が多かったです。
こうやって振り返ってみると、歌ものが僕の音楽のルーツになっているのかも。音楽を使って想いを届けるような、どっしりと構えてその世界観を楽しむようなものが、僕にとっては音楽のコアとなる要素かもしれませんね。

そういえばギターを弾く前は、クラシックを聴いたりしていました。きっかけがあったわけではなく、なんとなくなのですが、中3の時に友達と一緒にクラシックにハマりまして。よく音楽室でクラシックのCDを流して聴いたりしていました。それが直接ギターをはじめたわけではないのですが・・・
チャイコフスキーやドヴォルザークなど聴いていましたね。そこから少しずつ音楽に興味を持ちはじめたような気がします。

——トサキユウキさんはブルースを得意とされていますが、ブルースを聴くようになったのはいつぐらいでしたか?

ブルースはギターを弾くようになってからですね。変わらずフォークソングとかも好きで聴いていましたが、ブルースの曲を聴く割合が増えました。今も聴いている曲に違いはありませんね。
ただ、聴き方は変わりました。聴き方というか、曲に対する心構えというか。フォークソングを聴くときの心構え、ジャズを聴くときの心構え、みたいな。
フォークソングは歌詞をより意識するようになりました。いかに曲の歌詞と現実世界を結びつけるか、とか、どこかに歌詞の表現のかけらがないのではないか、とか。歌っている人が意図している瞬間がどこかにあるのではないかと思いながら聴いていることが多いですね。

ジャズも歌ものがあったりしますが、歌詞があるやつは、フォークソングと同じように詩を聴いてその世界観に浸ったり。僕はジャズはインストものが好きでそっちをよく聴くのですが、インストゥルメンタルは、なんとなくいいな〜と思って聴いてますね。

——トサキユウキさんは楽曲制作もされていますよね。曲を聴く時は、分析しようと思って聴くのでしょうか?

うーん、曲によりますかね。例えば僕の場合、ジャズを聴く時は一点に集中して聴きます。深海に潜るようなイメージで、目を瞑って精神統一しながら聴くことが多いですね。
今のこのスケール使ってるんじゃないかな、とか、今のフレーズかっこよかったな、くらいは思いますけど、意識してメロディを拾うようには聴かないですね。それこそ、深海に潜った時にその辺を泳いでいる魚をメロディやソロとして捕らえるようなイメージで曲を聴いています。

あまり考えたことなかったのですが、分析し過ぎないようにしているのかな。世界観を大切にしていて、弾いている人が何を考えているのかを感じ取ろうとしたり、その場の空気感を味わおうとしながら聴くことがジャズを味わうコツだと思います。
24時間365日、ずっと何かしらの音楽を聴いていますが、同じ曲を何回も聴いて世界観に浸るときもありますし、アレンジの参考のために聴くこともあります。結構その時々で聴き方を変えているので、同じ曲でも違って聞こえることがあります。

今まで聴いてきた音楽が制作にいきることももちろんあります。クラシックを聴いてきたことで、ストリングスアレンジとかはクラシックを聴いてきた経験が役立っていますね。ストリングスアレンジって結構しっかり勉強しないと作れなかったりするのですが、クラシックを聴いていたおかげでスムーズに作れるようになりました。勉強もしましたが、楽器の動きや配分などはクラシックを聴いていたおかげですんなり理解できましたね。

音楽は精神安定剤。24時間365日聴いていても飽きません

——リラックスしながら音楽を聴いていらっしゃるんですね。では、トサキユウキさんにとって音楽はどのような存在ですか?

精神安定剤ですね。常に音楽をインプットしていないと落ち着かないんです。音楽をいつも聴いて、なんか良いなと思ったり、仕事にいかせそうだなというのを考えたりしたいんですね。
常にというのは、24時間365日聴いています。それこそ寝ているとき以外、家に帰ったらまず音楽を流しますし、移動中もずっと何かしらの音楽を聴いています。
なんなら寝ているときも流しますね。それこそクラシックとかは寝ながら聴いたりしますね。あと低周波が流れる音楽や、睡眠にいい波の音楽を聴いたり。環境音も好きなんですよね。ジャングルの音とか波の音とか。焚き火の音も好きだな。

音楽中毒みたいな感じですよね。音楽をほとんど聴かない人と出会うこともありますが、そうなんだと驚いたりします。もちろんその人の自由ですけどね。おそらく、曲を作ったりアレンジを考える人たちは、ずっと音楽を聴いているんじゃないですかね。勉強のためというより、ないとダメという感じで。
なんでかというと、分析する曲の量が多過ぎて、常にインプットしていないと自分の中のストックがなくなってしまうんですよね。ストックが空になってしまうと、いろいろなジャンルで曲が作れないですし、新しいものを生み出せなくなってしまうんです。

特に、僕は新しいトラックを作りたいと思っているので、常に新しい曲を聴いています。ニューリリースプレイリストとかですね。それこそニューリリースプレイリストはたくさんありますけど、僕はR&Bを聴いたりするかな。あとは、トップチャートじゃないけど良い感じのやつを聴いたり。意外とそういうところに次のトップチャートになりうる要素が隠れていたりするんですよ。トップチャートってもうトップになっているわけですから、それを追いかけるよりは、まだ誰もみつけていないダイヤの原石を探したいんですね。

——常に音楽がそばにある状態で生活されているんですね。もし、音楽がなかったらどんな人生を送っていると思いますか?

まあ、ある程度普通に生きているんじゃないですかね(笑)
音楽は常に身近に置いているのですが、時々ふと、音楽やってなかったらまともに生きられたりするのかなと思ったり、若干音楽のせいで道を外れた感じがあるので(笑)、音楽なくてもいいと思っている節もあります。

ああでも、多分音楽やってなかったら、本は読まなかったですね。それは音楽やっていてよかったと思います。

——意外です。読書は昔からお好きなのかと思っていました。

いやいや、子どもの頃は、本大嫌いでしたよ。漫画も読めないくらい字が嫌いで、ちょっとした漫画とか、図鑑すら読めませんでした。文字がないゲームばっかりやってましたよ(笑)
高校の頃くらいまでまともに本を読んだことなかったですね。心理学に興味があって、催眠術の本を読んだりしたけど・・・
よっぽど興味がなければ読まなかったですね。

きっかけはなんとなくでした。ずっと作詞していたのですが、急に歌詞が書けなくなっちゃって。21歳か22歳の時くらいですかね。これはインプットが足りないと思って、詩を作るために本を読んだんです。
最初に手に取ったのは、村上 春樹でした。それも多分なんとなくなんですよね。それで、何冊か彼の作品を読んで、『海辺のカフカ』を読んだんですよ。作中に図書館のシーンがあって、そこで、夏目 漱石全集について触れるんですね。主人公が夏目 漱石好きで。
それで、そんなにいうなら読んでみるかと思って、夏目 漱石を読んだんですよ。そしたらもうどっぷりハマってしまって。昔の本って面白いなと思って、他の作品も読むようになり、そこからいろいろな作家の本を読むようになりましたね。

——トサキユウキさんは哲学の本もお好きと伺いました。

はい、哲学書もいろいろ読み漁りました。それもきっかけがフワッとしているんですよ。何か本を買おうと思って本屋に行ったとき、ショーペン・ハウワーの『幸福について』というのが平積みにされていて。何となく気になって読みはじめたのが、哲学との出会いでした。
彼は本文中に引用をたくさん使うんですよ。セネカやプラトンなど、古代哲学の言葉が引用されていて、自己啓発本みたいな感じなんですよね。それで、その引用元の哲学書をどんどん買って読み漁っていったことで、本だけでなく哲学にもハマっていきました。

ショーペン・ハウワーの『幸福について』は、僕の人間性をガラッと変えた本です。本文で、友達とかいらない、そんなの時間の無駄だ、みたいなことを書いてあって、それが特に印象的で。元々友達がいたわけじゃないですけど、この本を読んだことをきっかけに、無駄な交友関係はきっぱり無くしましたね。

——読書や哲学との出会いが、トサキユウキさんの今の音楽のルーツに繋がっていそうですね。

そうかもしれないですね。本を読んだり、哲学について理解を深めたりしたことによって、理論的に考える力がついたと思います。特にカントは理論的な思考を育ててくれましたね。そう言われてみると、僕は哲学的な発想で音楽作っているかもしれませんね。

読書するようになってから、音楽の聴き方も変わりました。歌詞に対しても、世界観としては何が言いたいのかわかっていたけど、文章的にすごいなということに気づくことが増えたり。より楽しみが広がりましたね。

1日中ずっと音楽に浸るのも、結構楽しいですよ

——音楽を楽しむことと読書が結びつきそうですね。では、トサキユウキさん流の音楽の楽しみ方を教えてください。

とにかくいつでもどんな形でも楽しんでいますね。曲を作るのも楽しいし、インプットしてアウトプットする作業も楽しいし、聴くのも楽しいし。

僕は作曲もしているので、やはり作り方がわかると、音楽の楽しみ方が一気に広がります。ある意味、音楽の“設計図”が見えるようになるので、曲の裏側やアナザーストーリーがわかると楽しいですよね。あ、この曲は絶対こういう意図があって曲作りしているな、みたいなことがわかると、自分とそのアーティストが対話しているような気持ちになれます。

音楽を風景に落とし込むというのも楽しいですね。自分が見ている風景を切り取って、そこに対して感じたことや思ったことを、音楽として形にするのも楽しいと思います。僕は曲を作ったりしますが、イメージソングを当てはめたりするのも良いですね。
音楽は、自由でいいから楽しいんじゃないですかね。

まああとは・・・1人で酒飲みながら音楽を聴く時は楽しいですね。この時って決まっているわけじゃなくて、落ち込んだ時やリラックスしたい時、気持ちを切り替えたい時など、いろんなシーンで酒と音楽は沁みます。でもまあ、大体疲れている時にやりますかね(笑)
聴くジャンルは、僕はジャズですね。スローなジャズ。プレイリストのメロウなジャズを集めたプレイリストを聴くとか、ジョン・コルトレーンやデクスター・ゴードンなどを僕はよく聴いています。彼らが出しているバラードを集めたCDとか。デクスター・ゴードンのバラードは滲みますね〜
お酒はなんでも良いと思います。飲みたいもので。個人的にはウイスキーがおすすめ。

僕みたいに、1日中ずっと音楽に浸るというのも結構楽しいと思いますよ。例えば、朝起きたらクラシックを流して頭をすっきりさせたり、帰ってきたらメロウなジャズを流したり。歩いていると頭の中でいろいろ考えられるので、移動中はニュートラックプレイリストを流したり。僕はギターの練習用のプレイリストを作っているので、それに合わせてギターを練習したり。
フィーリングで変えていますが、1日の中でいろいろな音楽を聴いているんです。
みなさんの1日の中にも、ちょっとした時間でも音楽を組み込んでみたら、良いリフレッシュになるんじゃないですかね。

ギターをとことんいじめ抜いて、ひたすら愛でる

——ありがとうございます。では、ギターの楽しみ方もぜひ教えてください。

演奏するのが楽しいというのは大前提ですよね。僕はアドリブを弾いているのが特に楽しくてしょうがないです。何も考えなくて良いですし、合っているのか間違っているのかは後でわかるものなので。それを気にするから、楽しくなくなってしまうんですね。
音を鳴らせばアドリブになりますし、音がずれていてもリズムが合っていれば逆に音のずれがかっこいいと思われたりもしますし。
とりあえず弾いてみようとする気持ちだったり、変に自分に保険をかけずに、まずやってみることが、ギターを楽しむ第一歩ではないでしょうか。

とにかくひたすら練習するのが楽しいですね。家で好きなように延々とギターを弾いている時が、一番落ち着くんですよね。自分の楽しみ方はマニアックであまり人にすすめるようなものではないかもしれません(笑)

自分で曲を作って完成させることも楽しいですね。作る過程も好きですけど、出来上がった時の達成感が、ああ楽しいなと思えますよね。仕事になるとうまくいかない時もありますが、自分で自分の好きな曲を勝手に作っている時は、めちゃめちゃ楽しいですね。

僕にとっては、ギターも精神安定剤のような存在かもしれませんね。練習しなかったり、曲作りしないと不安になってくるので。単純にギターを持っているのが好きなのかも。

——なるほど、ギターを愛でるみたいな楽しみ方もあるということですね。

僕の場合はとことんいじめ抜く(笑)
とにかくギターがボロボロになるまで使い込んだりしますし。傍から見たら、あまり大切に扱えていないかもしれないけれど、これも愛なんですよという感じですね(笑)
昔からギターをボロボロにしたい欲がありまして。今のギターってコーティングがしっかりしているから、なかなかボロボロにならないんですよ。僕は傷や削れも味だと思うので、あえてコーディングされてないギターを買いたいんですよね。まあとは、単純にかっこいいじゃないですか(笑)

使い込んでいくことで、ギターってどんどん自分らしいギターになっていくんですよね。その変化が楽しいですね。使い込んでいくと、ギターって音色や響きが結構変わっていくんですよ。僕が持っているギターも、最初は全然馴染まなくて大嫌いだったんですけど、最近は良い感じに馴染んできました。
革製品やデニムを育てる感覚と近いと思います。男性はギター育てるの好きだと思うな(笑)

あとサウンドホールの匂いを嗅ぐとか。

——え?猫吸いみたいなことですか?

そうそう。え?もしかして嗅いだことないんですか?それは損してますよ!(笑)
ギブソンとか、アメリカっぽい匂いがしますよ。行ったことないけど(笑)
結構やっているギタリスト多いんじゃないですかね。ヒロキンスも嗅ぐって言ってたし。

木の匂いを楽しむというのは結構おすすめですね。どんなに古いギターでも、木の匂いがするんですよね。

愛でる楽しみ方だったら、オブジェやインテリアとして楽しむとかですかね。部屋にあるだけで雰囲気を作ってくれるので。僕は部屋を木目調の家具で統一しているので、コーティングしていないギターだと、自然に溶け込むので、良い感じに部屋の雰囲気を演出してくれます。
あとウイスキーと木の匂いって合うんですよ。だからお酒を飲みながらギターを弾く時間は、僕に取って至福の時間です。

単純に、ギター持っている自分かっこいいなっていうのもあるんじゃないかな。やっぱりモテたくてはじめる人って多いし。1人で練習するというのは、自分に酔っている状態だったりしますよ。今のフレーズ良かったなって思うときは、僕も自分に酔っている状態なんじゃないかな。まあ多少なりともそういう気持ちがなければ、ギタリストというか、表現者になろうと思わないですよね。
とはいえ、自分に酔うのはやっぱり恥ずかしいじゃないですか。そういったハードルを軽々超えていけるのは、ギターだと思いますね。

——本日はありがとうございました!

ありがとうございました。結構玄人的な楽しみ方ばかり紹介してしまった気がしますが・・・
ギターを使い込んでいく楽しみというのは、一人ひとり違うと思うので、ご自身なりの楽しみ方を追求していただきたいですね!お互いのギターをひたすらに見せびらかし合う会とかやったら楽しそう(笑)

単純にセッションするのも好きなので、今後、みなさんとセッションする機会がたくさんあったら良いなと思います。KGA Studioでもイベントを多数企画中なので、楽しみにしていてください!

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